元教官が消防学校の6カ月間の生活と訓練を語る

2018年11月9日

消防学校

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消防学校の元教官が消防学校の6ヶ月間の生活と訓練の内容を日本一詳しくまとめてみたいと思います。

 

消防士の採用試験に合格してから実際に働き始めるまでに不安だったことを,初任科学生に聞いたことがあります。

 

一番の悩みは,「自分が消防学校の訓練と生活についていけるか不安でたまらない。」ということでした。

 

私が採用された40年以上前はインターネットもありません。消防学校でどんな訓練や生活をしているのか全くわかりません。消防学校にどんな準備をして行けばいいかもわかりませんでした。

 

今みたいにSNSもなかったので,情報収集も全くできませんでした。

 

現在でも,消防学校は,ある意味閉鎖的で現職の消防士がなどSNSで詳しい内容を発信することもできないので,詳しいことは実際に入校してみるまでわからない場合が多いと聞いています。

 

それでもインターネットで情報は得やすいですが,実際の現場の生の声というものはわからないものです。

 

普通,現職の消防士が自分のホームページやSNSに書き込むと「守秘義務」違反になって処分される場合が多いと思いますし,ホームページやブログ運営すると「副業禁止規定」に違反する場合が多いと思います。

 

元消防職員として,これから消防職員を目指す君たち,現在消防職員として勤務している君たちの役に立つ情報を発信したいと思います。

 

それでは,これから消防学校の具体的な訓練と生活の内容,1日のスケジュール,入校前に準備しておくべきことなどを現職の消防職員の感想及び私の意見でまとめて書いていきたいと思います。

 

すでに採用試験を合格している方はもちろん,これから消防士を目指そうとしている人も参考にしてください。 

 

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消防学校って何?

 

まず消防士になるには,全国各地で実施される採用試験に合格する必要があります。

 

そこで合格して消防職員として採用された人が,最初に消防士としての教育や訓練を受ける場所が消防学校です。

 

消防学校では,現場の仕事に必要な知識・体力・チームワークなどを身につけます。

 

消防学校に入校するまで

 

おおむね4月1日付で採用されて消防学校に入校するまでの間に採用された自治体の研修を受ける場合が多いです。また,制服等の採寸があったりします。

 

自治体によって前期入校は4月〜9月で後期入校は10月〜3月までの期間と分かれている場合もありますが,4月から約半年間入校する自治体が多いです。

 

前期のメリット

現場に出るまでに消防学校の同期や教官から様々な情報を収集できることだと思います。

前期のデメリット

暑い気候で訓練をするため,熱中症になる場合があったりするので体力的に厳しいと感じる人もいると思います。

 

後期のメリット

最初の半年間を消防署で実際に仕事をしているので,消防学校で勉強するときに理解しやすく仕事を早く覚えることができると思います。

後期のデメリット

寒い気候で訓練をするため,怪我には十分注意する必要があると思います。

 

そして採用された消防職員は消防学校に入校することになります。

 

入校した職員たちは,寮生活をしながら6ヶ月間にわたり訓練を受けて,消防士としての基本的なスキルを身に付けるため,県内の各消防本部から入校している同期とともに生活し,汗や涙を流し絆を深めて,半年後に現場へ戻ってきます。

 

消防学校でのカリキュラムについて

 

消防学校の初任科(初任研修科・初任教育科ともいう)のカリキュラム内容を紹介します。

 

その前に,消防学校は日本全国に何校あるか知っている人はいますか?

 

令和2年4月1日現在,消防学校は,全国47都道府県と指定都市である札幌市,千葉市,横浜市,名古屋市,京都市,神戸市及び福岡市の7市並びに東京消防庁に設置されており,全国に55校あります。(東京都では,東京都消防訓練所及び東京消防庁消防学校の2校が併設されている。)。

 

そして,消防学校における教育訓練の基準として,「消防学校の教育訓練の基準」が定められています。

 

各消防学校では,この中で定められている「到達目標」を尊重した上で,「標準的な教科目及び時間数」を参考指針として活用し,具体的なカリキュラムを定められています。

 

教育訓練の種類には,消防職員に対する「初任教育」,「専科教育」,「幹部教育」及び「特別教育」と,消防団員に対する「基礎教育」,「専科教育」,「幹部教育」及び「特別教育」があります。

 

「初任教育」とは,新たに採用されたすべての消防職員を対象に行う基礎的な教育訓練をいい,基準上の教育時間は800時間とされています。

 

消防士に採用された人は,この「初任教育」を受講します。半年間の寮生活を送りながら,業務に必要な知識や技術を学びます。

 

参考ですが,「専科教育」は,ある程度の経験を積んだ消防士が救急や救助などの専門知識を学ぶもので,「幹部教育」は,幹部候補や現職幹部が部下のマネジメントなどを学ぶもので,「特別教育」は,予防実務などの特定業務に特化した内容を学びます。  

 

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消防学校の800時間の訓練内容 

 

 消防士の任務は,人命を救助し,消火をすること。ひとたび火災現場に出れば,新人も先輩も関係ありません。命のかかわる現場で,新人だからといって,わかりませんは通用しません。  

 

 そのため,初任教育の期間中に勉強と訓練の日々を送り一人前の消防士を目指します。

 

 カリキュラムの内容は地域ごとに若干の違いはありますが,初任教育修了時に,直ちに警防隊員(救急隊以外の業務を行う)として勤務できることが目標とされています。

 

 具体的には,服務義務,基本的な安全管理,消防業務全般の概要等を理解し,隊長の下命に基づく基本的な活動ができることを目指しています。

 

そして,通常6月間の全寮制,最低800時間以上の授業が行われます。

 

 ただし,学生とはいえ身分は消防職員。学費を納める必要はなく,初任教育期間中も給料は支給されます。

 

 800時間の訓練内容は図のとおりです。 




授業内容は,「座学」と「実技」にわけられます。

「座学」は,学生時代に受けた授業です。消防に関する法律や制度,火災,安全管理などの内容を消防学校の教室で勉強します。

「実技」は,各種訓練が中心です。体育の授業もあります。最初は訓練礼式(敬礼の仕方など)から始まり,ロープの結び方や防火衣の着装方法といった基本動作を学びます。

ここまでの基礎的内容を学ぶのに3ヶ月程度かかり,途中にテストや応用訓練が入ってきます。目安ですが,残り2ヶ月程度になって,ようやく現場を想定した活動訓練が行えるようになります。

 

消防学校の寮生活について 

 

消防学校の寮生活におけるルールは都道府県によって若干の違いがあります。

 

消防学校に入校すると,5人前後の班に分けられます。そして,この班のメンバーと同じ部屋で寮生活をします。室内は,個別に仕切られて半個室といった感じの都道府県もありますし,一つの部屋の中をカーテンで仕切るだけの都道府県もあります。洗面所や風呂場などは共有です。

 

ここだけの話で本音を言うと,自分と気が会わない人と一緒になってしまうと寮生活はつらくなります。しかし,世の中には,必ず自分と合わない人が存在するものなので,そこは大人の対応で6ヶ月間を過ごしましょう。

 

学生時代は気の合う仲間だけでも楽しくやってこれたと思います。 

社会に出るということは気の合う仲間以外ともやっていかなければならないのです。現場に出動すると,税金泥棒と文句を言われるなど様々な人がいるのが事実です。

消防学校は,そういう意味での勉強などをするチャンスを与えてくれているのではないだろうかと最近思うことがあります。

 
 さて,本題に戻ります。 

 

半年間,平日の外出は一切禁止の都道府県と許可を取れば外出可能な都道府県もあります。入校後の最初の週末(土・日)は外出のみ可能で,外泊禁止の消防学校もあれば,外泊可能で消防学校に週末(土・日)に宿泊するのが禁止の消防学校もあります。 

祝日に関しては,おおむね外出と外泊が許可されています。

 

また,インターネット上によくある情報で,携帯電話・雑誌の持ち込みやマイカーの乗り入れは禁止とありますが,そんなことないです。あくまでも原則のため,例外はあります。最近では携帯電話の持ち込み可能な消防学校も多いです。

生活面での厳しいルールは特に設定されていません。  

食事や入浴,就寝などの時間は決められています。

他のルールとして,例をあげるなら,「複数名で移動する際は,しっかりと隊列を組んで行動し3歩以上は駆け足をする」,「教官室に入る際は用件を大声で申告してから入る」,という簡単なルールが消防学校によってあります。

 

消防学校に入校したら,教官が説明してくれますので安心してください。

 

ちなみに訓練中の期間であっても,各市町村から消防学校への入学・研修を命じられた消防職員として,給与・各種手当等が支給されます。

 

そのため,一般的な高校や大学や専門学校での学生の生活とは異なりますので,消防職員としての誇りと使命感を持って過ごす必要があります。

 

決められた授業や訓練以外の時間にも,自主的にトレーニングや勉強を行い,少しでも早く一人前になろうと努力していく姿勢が求められることでしょう。

 

 

一日のスケジュール

 

消防学校は,学生の人数が多いので,学生をまとめる班長や総代などのリーダーが必要になります。 

消防学校での主な役職は,総代・副総代・班長です。

生徒会長,副会長,委員長みたいなイメージです。

 

こうしたリーダーは,消防学校の団体生活では大変重要です。消防は,チームワークが大切で仲間と協力することが重要だということを学びます。

ミス等の指摘箇所があると,全体責任で,腕立て伏せや腹筋やかがみ跳躍といった体力練成(昔はペナルティと呼んでいた)を教官から課せられることもあります。

 

初任教育中の,起床から就寝までの一日のスケジュールは,以下のようになっています。

 

●6:00〜 起床・体操・掃除 

消防学校の一日は,朝6時の起床でスタートします。起床してから10~15分後には,グラウンドに集合して点呼を行います。雨の日は廊下や体育館で行います。

短時間ですべての準備を整え,グラウンドへ集合するのも大切な訓練の1つです。

点呼や人員確認は,日常業務の中でも実施されています。これも訓練です。朝だからといって,気を抜くことは許されません。

点呼完了後,体操とランニングをして,校内の掃除を行います。

 

●7:00〜 朝食,授業の準備 

朝食を済ませたら,すぐに制服に着替えて「通常点検」に入ります。点検では,消防士としての身だしなみや消防手帳の確認がおこなわれます。

 

●8:30〜 午前授業 

8時30分から12時までが午前の授業(座学・訓練)。1時限は50分。午前中に3時限,午後に4時限,合計7時限をこなします。

午前中は座学が中心です。座学では,消防士に必要な基礎知識やモラルといった,技術の土台となる知識を学びます。

 

●12:00〜 昼食・休憩 

1時間の昼食・休憩になります。

 

●1:00〜 午後授業スタート 

昼食を挟み,13時から17時15分までが午後の授業。午後は,訓練や体力トレーニングが中心になります。

消火・救急・救助に関するさまざまな訓練や機器取扱訓練を受けながら,実践的な技術を身につけます。また,校外で特別訓練をする日もあります。

 

●17:15〜 終業 

授業終了後,清掃などをおこないます。

 

●18:00〜 夕食 

食事や入浴を済ませたら,自由時間。

自由時間は日中の訓練を復習したりするための時間です。

学生が自主的に筋力トレーニング等の体力錬成や,入浴,夜間訓練などを行ったりします。また,各寮室内で,座学の予習・復習や訓練内容をテーマとして班員で話し合いを行います。

学生は全員18歳以上なので,寮内における生活は基本的には自己責任です。現在は,30年40年前に比べて生活面での厳しいルールも特にないそうです。

 

●23:00〜 就寝 

22時前後に最後の点呼があります。

1日の終わりの点呼です。寮室内の整理・整頓状況の点検,学生の健康状態等を確認します。

そして,23時頃に消灯となります。

 

体育会系の部活に入っていた人でも学校生活で悩む人が多いそうです。

 

消防学校での悩み事

 

1 消防学校から出れない

携帯電話は持ち込みは可能ですが,消防学校は原則1週間外出できません。 

彼女や彼氏がいる学生も当然います。年齢的にも遊びたい盛りなのに,会うこともできません。電話することが唯一の手段。自由時間にメールや電話をする学生が多いです。

 

2 集団生活に慣れない

消防学校での集団生活は,ただの集団生活ではないのです。先ほどもお話ししましたが,とにかくすべて全体の連帯責任,ミスをすれば,連帯責任です。教官から体力練成を指導されます

この体力練成が大変です。大体は,腕立て伏せ・腹筋・かがみ跳躍で,1回の指摘事項につき10回実施します。

また,100人前後の消防士が,学校に入校するわけですが,年齢層の幅があります。

中学や高校と違って,同期は同学年ではありません。上は,30歳以上から下は,18歳までいます。

 当然,意見も性格も合わない人が絶対いるのに,チームワーク,連帯責任が付きまといます。 

 

3 厳しい訓練に慣れない

教官からの厳しい指導の中,様々な訓練を行いますが,一人で行うわけではないので,ミスをするとチームに迷惑がかかります。

さらに,防火服や空気呼吸器を背負って行う訓練は,とにかく気合いを入れていないと,夏は暑さで意識が遠のくこともあります。

 

学校生活の悩みについて 

 

 自分1人が悩んでいるわけではありません。みんな同じ悩みを抱えています。

 

最初は,性格が合わなかった人でも困難を乗り越えていくうちに仲良くなってきます。何とかして,学校生活や訓練の課題や困難を一緒に乗り越えようと協力するようになってきます。

最終的に,一生の宝といってもいいほどの仲間,親友になっています。

それでも,気が合わない人がいたら,そこは大人の対応で半年過ごしましょう。

 

消防学校入校前に準備すること

 

消防学校に入るまでの間に,何か準備することはありますか?という質問をよく聞きます。

 

採用が決まると,消防学校に入るまでの間に「何か資格を取ろう」と考える人も多いです。しかし,資格以上に,厳しい訓練を最後までやり抜くための体力をつけることが重要です。

 体力があれば,半年の訓練は絶対に乗り切れます。

防火衣や空気呼吸器を着装し,ホースを担いで走り回るわけですから,体力がなければついてはいけません。

実際の訓練では,防火衣着装,ホース延長,火災現場の暑さを実際に体感したりします。また人命救助では,カラビナの扱い方,ロープ登坂,ロープ渡過といった実践的な技術も学んでいきます。

他には「三連はしご」や「空気呼吸器」といった資機材の取扱い訓練,適切な応急手当てをおこなうための救急の授業もあります。

 

学校を卒業するころは,ほとんどの学生が筋肉質な体型になっています。

モテます。

 

最後に

 

いかがでしたか。今回は,消防士の最初の関門「初任教育」における消防学校の生活と訓練について書きました。

 

消防学校の寮生活は,学生時代の自由気ままな生活に比べて,厳しいのは間違いありません。

はじめは,誰もが夢や希望,不安や緊張が交錯する気分で消防学校の門をくぐります。そして,消防学校で現実を突きつけられ,肉体・精神ともに徹底的に追いつめられることになります。

 

決して楽なことばかりではありませんが,消防学校は”本物の消防士”になるための第一歩です。

 

市民の生命や財産,地域の安全を守り抜くという,強い意思を持って臨んで欲しいと思います。

 

消防学校での半年間は,常に時間に追われ,常に大きな声を張り上げ,教官に怒鳴られ,連帯責任で・・・というような日々が続きます。精神,肉体ともに限界まで追い込まれ,訓練が終わるころにはみんなくたくたになっています。

 

では,なぜそのような厳しい教育を受けるのでしょうか?

それは,消防という仕事が命を守るという使命を持っているからです。 消防士の仕事は,11秒を争う現場や,危険と隣り合わせの現場で活動することが多いです。

 

そのような現場で,自分と仲間を守り,市民を助けるためには,知識・技術はもちろんのこと,強靭な精神と肉体も必要不可欠です。

そのために,最初の初任教育では,厳しく過酷な教育を受けるのです。

 

自分には無理なのではと不安に思う人もいると思いますが,消防士になる以上誰もが通る道です。

 

自分一人ではなく,周りには同期がいます。

 

体力がない人,勉強が苦手な人など色々な人がいますが,同期で支え合って乗り越えていきます。

 

同じ釜の飯を食い,一緒に風呂に入り,喧嘩もする。

喜びも悲しみも共にする。

そして,数えきれない汗と涙を流す。

それこそが,仲間の絆ではないだろうか。